賃貸の修繕のトラブルで引っ越しが必要な可能性もあるって本当?
賃貸物件も建物の築年数が経過していくにつれて、設備の故障や建物の損傷なども発生します。
また、他の階の住人の不注意や自然災害によって、設備や内装の一部が破損してしまうケースも。
このような設備や物件の破損を修繕する場合には、誰が修理費用を負担するべきなのか気になりますよね。
この記事ではそんな賃貸物件の修繕トラブルの解決方法や、修繕の支払い区分を法律や過去の事例に触れながら確認していきます。
意外と多い賃貸の修繕にまつわるトラブルの相談件数
そもそも賃貸の修繕に関するトラブルってよくあることなの?
賃貸物件にまつわるトラブルの中でも、修繕にまつわるトラブルの相談件数は非常に多いです。
例えば修繕にまつわるトラブルの一例としてあげられる、原状回復に関するトラブルを例に考えてみましょう。
PIO-NETに登録されている「賃貸住宅の原状回復トラブル(参考:国民生活センター)」の件数は以下の通りです。
年度 | 2020 | 2021 | 2022 |
相談件数 | 13,364 | 14,111 | 12,856 |
また国土交通省の「賃貸不動産管理をめぐるトラブル等の現状(参考:国土交通省)」では、賃貸不動産に関するトラブル全体の41%が原状回復によるものでした。
もちろん、原状回復に関連しない修繕のトラブルも加えると、その件数はさらに増えることが予想されます。
特に賃貸の修繕や不動産に関する法律の知識が少ない方も多い女性の単身者は、大家や不動産屋の主張をそのまま受け入れてしまうケースも少なくありません。
そのため大家や不動産屋が、賃借人に請求すべきでない費用やその内容に関して把握しておくことはとても重要です。
また、修繕トラブルは契約時の修繕規定があいまいな点が原因となって発生しやすいです。
水商売や夜職の方で、大家との直接契約をしている場合などには、独自のルールを適用されてしまうケースもあるので注意しましょう。
これらのトラブルは水商売や夜職に理解のある不動産屋に相談しておくことで、回避できる可能性は高くなります。
水商売の方で不動産に関する相談は、水商売の方専門の不動産屋「ナイトハウス」にぜひご相談ください。
水商売や夜職の方の賃貸契約から、居住後のサポートまで不動産だけでなく夜職事情にも通じたスタッフがしっかりと対応いたします。
賃貸物件の修繕は誰が対応する?
賃貸物件の修繕は誰がするのか基本的なルールはあるの?
賃借の修繕の負担区分は民法と、それに対応して作成される賃貸借契約によって、おおよその負担区分は決められています。
ここからは一部の例外や気をつけておきたいポイントと、修繕費用を誰が負担すべきなのかについて紹介していきます。
基本的に修繕対応するのは賃貸人
結論から確認しておくと、賃貸物件の修繕は基本的に大家や、不動産屋が修繕する必要があります。
物件自体はもちろん、設備も基本的には、オーナーの所有物です。
このルールは民法606条で具体的には、以下のように規定されています。
ここで規定されている修繕義務の対象がどのようなものか、具体的な例を確認してみましょう。
- ウォシュレットやエアコンなど設備の故障や破損
- 雨漏りなどによる居室の被害に対する修繕
- 経年劣化によるクロスや壁紙の損傷
- 自然災害による損傷
- 家具や家電の設置痕の修繕
この他にも先述した原状回復のためのハウスクリーニングも、オーナーが費用を負担して実施すべき内容です。
同様に入居した時点ですでにあった損傷も、賃貸人が修理すべき項目ですので、入居時には室内の傷や設備の破損がないか細かく確認しておきましょう。
注意したいのは、ここでの修繕はあくまでも「賃貸物の使用および収益に必要」な程度です。
クロスのちょっとした汚れがあるという理由での張替えや、設備を新品に交換するという義務はないという点には注意しておきましょう。
606条の2項にある通り、収益物件の修繕はオーナーの義務であると同時に権利でもあります。
女性にとっては他人に家の中を見られるのは、あまり気持の良いことではないですよね。
ですが物件の保存のために必要な修繕を入居者が拒むことはできません。
賃借人が負担しなければいけないケース
ただし、全ての修繕をオーナーが負担しなければいけないわけではありません。
賃貸の修繕において一部のケースでは賃借人、つまり入居者が費用を負担しなくてはならないケースがあります。
以下のような場合には、賃貸物件の修繕を賃借人が行うか、費用を負担しなければなりません。
- 入居者の故意で物件や設備を破損してしまって場合
- 不具合が発生していることを知っていながら長期間放置した場合
賃貸物件を借りている側には、「善良な管理者の注意義務」というものが課されています。
この義務は民法644条で規定されているもので、かんたんに言えば「他人のものを使用するさいに、自分のものと同じように注意して大切に扱う」と言った意味です。
そしてこの大切に扱うという基準は、社会一般的にみて妥当性があるかどうかという点で判断されます。
物件の設備などを故意に破損したり、不具合を放置することは大切に扱っていないとみなされてしまう行為です。
このような行為をしてしまった場合には、債務不履行として修繕費用を負担しなければいけません。
この他にも設備ではなく、前の住人が置いていった家電などの残置物。
修繕義務免除特約が契約書に記載されている場合には、その内容に関しては賃借人が修理費を負担する必要があります。
修繕期間中や修繕対象の注意点
修繕している間はどうやって過ごせば良いの?
修繕が室内で長期間にわたる場合や、屋外でも騒音を伴う場合、夜職や水商売の方は日中の睡眠を妨げられる原因となってしまいます。
その場合に、一時的に他の物件を契約したり、ホテルを利用することは可能なのか気になりますよね。
残念ながらホテルの利用や他の物件を利用した場合の費用を請求することは難しいです。
これは民法606条で以下のような規定があることが理由となっています。
この第2項の規定により、賃借人は例え修繕のために一時退去が必要になってもそれを拒むことはできず、さらに費用を請求することもできません。
注意:横浜地判昭和33年11月27日(下民集9巻11号2332号 参照:不動産適正取引推進機構)の判決では、賃借人が物件保存のための修繕を拒む場合には、強制退去させることも可能であるとの判決をだしています。
意外と知らない負担区分や修繕トラブルの裁判の争点
故意に破損しなければ、自分で払う必要はないってこと?
一般的に故意の破損でなければ修繕の必要はありません。
しかし、通常の生活によって生じる劣化にも、一部居住者が原因とされる内容があるので注意が必要です。
賃貸人と賃借人それぞれの負担内容
それではどのような内容が賃貸人、賃借人それぞれの負担となっているのか例を確認しておきましょう。
大家が負担する項目 | 借主が負担する項目 | |
ガイドラインの定義 | 経年変化や通常損耗に該当するもの | 通常の使用を超える使用による損耗等 |
具体的な例 | 画鋲、壁のビス穴など、網戸の張替え、エアコンの内部洗浄、フローリングのワックスがけ設備の破損、家具の設置跡、冷蔵庫裏の日焼け | タバコのヤニや臭い、ペットによる柱の傷や臭い、引っ越し作業中に生じた床や壁面の傷、壁のくぎ穴、ねじ穴など残置物の修繕、雨の吹込みによる床や壁の色落ち、庭の雑草処理水漏れなどの傷やゆがみ |
意外に思われるかもしれませんが、クロスの張り替えもタバコが原因の場合には、借主負担となってしまいます。
またペット可の物件でも、ペットのつけたキズなどは修繕が必要です。
同様に水漏れや雨の吹込みなどでできた劣化も、居住者に責任があるので注意しましょう。
事例から考える修繕トラブルのポイント
修繕をお願いしても対応してくれない場合など、トラブルの場合はどうすればいいの?
「修繕をしてくれない」「不当な費用を請求された」このようなことが、修繕トラブルの原因となります。
また修繕によって賃借人に被害が発生した場合には、どこまでオーナー側が責任を負う必要があるのでしょうか。
修繕のトラブルが発生した場合に責任がオーナーにあるのかどうかの、決めてとなるポイントを過去の事例も踏まえて考えてみましょう。
実際の事例 | |
トラブル内容 | 浴室とトイレの下水が逆流して部屋が汚水で満たされてしまった。大家に相談したところ、汚水が逆流しないように業者手配をしてくれたが、汚水で汚れた部屋や私物のクリーニングはしてくれなかった。 そのため賃借人は引越しを余儀なくされたので、引越し費用の負担をオーナーに求めた。 |
裁判所の判決 | 適切なクリーニング対応が行わなかったとの判断から、新居への転居に要した経費や家賃の差額などの損害賠償の一部が認められた。 |
この裁判は東京地裁で令和2年12月24日判決がくだされた事例です。
本件ではオーナーはマンションの下水の逆流に対する対応はしましたが、下水トラブルによって汚れた部屋のクリーニングは行いませんでした。
裁判所はこの点についてのオーナーの対応不足を指摘して、引越し費用の一部負担を命じています。
この裁判だけでなく他のケースも総合すると、修繕トラブルはオーナーが被害にあった入居者に対して、しっかりと対応する姿勢をみせているかがポイントになる傾向があります。
一方で仮住まいの費用などは認められるケースが少なく、修繕をした結果が居住者の満足のいく物であるかどうかが判決に影響する事も少ないです。
そのため修繕依頼をしても、対応する姿勢を示してもらえない場合には、転居費用などを支払ってもらえる可能性は十分あります。
その場合には依頼を始めた時期など、証拠になる情報をしっかりと残しておきましょう。
修繕を依頼している内容が生活に支障がない場合には、オーナーが対応しない場合にも費用が請求できない可能性が高いです。
例えば春や秋の時期にエアコンの修繕をしてもらえなかった場合でも、緊急性が低いとして却下される可能性があります。
夜職の方がトラブルに巻き込まれた場合の対応方法
修繕のトラブルに巻き込まれたらどうすればいいの?
もしも修繕のトラブルに巻き込まれてしまったら、どのような対応をすればいいのか不安になりますよね。
そこで、ここからはトラブルに巻き込まれてしまった場合に、どのような対応を取るべきかについて紹介していきます。
代替案の提案をする
1つ目のケースとして、修繕に伴い騒音がでる場合や、部屋に滞在できなくなってしまう場合に関してです。
この場合には勝手にホテルや他の部屋を一時的に契約しても、費用を支払ってもらえないケースが多いことを確認しました。
しかし、大家や管理している不動産屋の所有している他の物件を一時的に使用させてもらうことや、使用できない箇所の分家賃を減免してもらうことができるかもしれません。
このように、他の方法を提案することで、トラブルに発展せず円滑に修繕を行うことができる可能性があります。
入居者もオーナーも双方合意できる内容を探してみるのがおすすめです。
国民生活センターなどに対応を相談する
「修繕の対応をしてくれない」「対応義務はないと言われている」「対応するとはいうもののいつまでも連絡がない」
このような状況の場合には、オーナーや不動産屋に代替案の提案など建設的な話し合いも難しいでしょう。
そのため第三者に間に入ってもらうのがおすすめです。
第三者というと弁護士を想像する方も多いと思いますが、市区町村などでも賃貸のトラブルの相談窓口が設置されています。
- 国民生活センター(消費者ホットライン:188 に電話)
受付時間:平日10~12時/13~16時 - 市区町村の相談窓口(各市区町村の生活課などへ連絡)
- 不動産適正取引推進機構 (電話番号:0570-021-030)
受付時間:平日10~16時 - 日本消費者協会 (電話番号:03-5282-5319)
受付時間:水曜日・金曜日 10~12時 13~16時半 - 法テラス(電話番号:0570-078374)
受付時間:平日9~21時/土曜日9~17時
この中でも「法テラス」は弁護士への相談の場になるので、まずは国民生活センターや市区町村の窓口に相談してみるのがおすすめです。
これらの窓口では双方の合意の上での解決を目指す場を提供してくれるため、裁判などになってどちらかに遺恨を残すといった事態を避けることができます。
また裁判になると費用がかかる上に、長期間におよぶ可能性が高いので気をつけましょう。
賃貸の修繕トラブルはあいまいな部分も多いので注意が必要!
この記事では賃貸物件の修繕トラブルについて解説してきました。
賃貸物件の修繕は基本的に不動産屋や、不動産オーナーが行うことが民法でも規定されています。
その一方で故意の破損など、悪質な行為で修繕が必要になった場合には、居住者が費用を負担して修繕を行う必要があります。
修繕をめぐるトラブルで扱いが難しいのは、どこまでオーナーが修繕の対応すべきかという点です。
修繕範囲などは居住者とオーナー共に合意の上で進められるのが一番ですが、折り合いがつかない場合には、第三者に間に入ってもらうのも効果的です。
水商売や夜職の方は、不動産契約で弱い立場になりやすいので、自分を守ってくれる信頼できる不動産を通して物件を契約するようにしましょう。